ねじの豆知識 「アンカー」 第一回 「アンカー」と呼ばれるファスナー

大型建築物や工作機械、橋梁やプラント設備など、私たちの身の回りにある多くの構造物は、コンクリート基礎の上にしっかりと据え付けられています。その「しっかり」を担保するのが「アンカーボルト」です。今回の「ねじの豆知識」は全4回で締結資材「アンカー」をご紹介します。


ねじの豆知識 「アンカー」 
第一回 「アンカー」と呼ばれるファスナー(本稿)
第二回 埋込(先付)アンカーボルト(近日公開)
第三回 あと施工アンカー その1(近日公開)
第四回 あと施工アンカー その2(近日公開)



アンカーボルトとは?

アンカーボルトは、構造物や機器などをコンクリート基礎に固定するためのボルトです。基礎に埋め込まれ、強い引抜力やせん断力に耐え、上部構造を地震や風などの外力から守る重要な役割を果たします。



またコンクリート打設後に「あと施工アンカー」と呼ばれるハンマードリルなどで穴を開けてから打ち込むことで使用する締結資材があります。



さらには、石膏ボードやケイカル板でできた建物の内壁(構造的に空中壁と呼ばれます)にエアコン等を取り付けるためのファスナーは「ボードアンカー」などと呼ばれて、このカテゴリーも「アンカー」なんです。「ボードアンカー」にも沢山の種類があります。


なぜアンカー(英 anchor)?

「アンカー(英 anchor)」は、本来は船を海底に固定するための錨(いかり。ちなみに錨に「石」が用いられていた時代は漢字「碇」が主に用いられていました)を意味します。錨は海底に沈められ、船をその場に留める役割を果たします。




この「固定する」「動かなくする」という本質的な機能が転じて、構造物を基礎などに確実に連結し、移動や転倒を防ぐために使われる締結部品に「アンカー」という名称が用いられるようになったようです。アンカーボルトやアンカーはまさに、構造体を「錨のように」地面・基礎に固定する役割を果たすファスナーということなのでしょう。

「固定する」「動かなくする」という機能を持つファスナーが「アンカー」と呼ばれることを理解すると、コンクリートの基礎にあらかじめ埋設するタイプやコンクリートが硬化した後に、床や柱や壁を穿穴して挿入して工作物を固定するファスナーを「アンカー」と呼ぶのは納得です。


埋込アンカーボルト(先付けアンカーボルト)

建築用アンカーボルトには様々なタイプがあります。まず思いつくのはコンクリート打設前に鉄線を用いて鉄筋に強固に結束する「埋込アンカー」や「先付けアンカー」と呼ばれるアンカーボルトです。



「アンカーボルト」の形状は用途によってさまざまで、引き抜き強度を向上させるためにL型やJ型の形をしたもの(JISで「基礎ボルト」と区分されます)があり、施工方法は、ワイヤなどを用いて鉄筋とアンカーボルトを固定させてからコンクリートを打設するのが一般的です。主に鉄骨構造の建物で荷重の分散、安定性の確保、部材の接続、耐久性の向上のため、基礎コンクリートに埋設される定着板へ取り付けて使用するものもあります。

こうした建築用のアンカーボルトは役割により大きく建て方(たてかた)用アンカーボルトと構造用アンカーボルトに分類されます。
※建て方:建物の主要構造部を組み立てることを指します。

建て方用アンカーボルト(別名仮設アンカーボルト)は建物を建てる際に、柱を建てる時の位置決めと一時的な柱の転倒防止に利用されるもので、構造上の耐力を負担しないアンカーボルトです。木造住宅や住宅用ガレージなど、軽量な構造物に使用されます。



それに対して、構造計算の時にアンカーボルトに引き抜き力やせん断力が作用するものとして設計したアンカーボルトを「構造用アンカーボルト」と呼びます。建物の構造上の耐力を負担し、建て方後も建物と大地を基礎コンクリートの中でつなぐ重要な役割を担っています。



あと施工アンカー

先付けアンカーとは異なりコンクリート打設後、鉄筋コンクリート製の柱・梁・床・壁などへの設備機器固定するために用いられるのが「あと施工アンカー」と呼ばれる締結部品(ファスナー)です。



あと施工アンカーにも様々な種類があります。例えば施工方式によって打ち込み方式や締め付け方式と言われる金属系アンカー。そして、母材に予め穿孔した孔に充填した接着剤(カプセル方式又は注入方式)が化学反応により硬化し、定着部を物理的に固着するカプセル方式や注入方式の接着系アンカー。さらには、これらの分類に属さないプラスチック系の挟み込み式やねじ固定式のアンカーなどです。材質(金属、プラスチック等)及び固着方法(打込式、ねじ込式等)の様々なタイプの「あと施工アンカー」があります。



ボードアンカー

「ボードアンカー」もあと施工アンカーに分類されます。ではボードアンカーとはどんな締結部品なのでしょうか?

石膏ボードでできた壁に棚などを釘で打ち込んだりビス揉みしたりした際に、しっかり固定できずにすぐに抜けてしまい、何度も繰り返すうちにボードがボロボロになってしまったということを経験した方は少なくないと思います。

この釘やビスが効かないというボード壁の弱点を補うのが「ボードアンカー」です。ボードアンカーには大きくわけて2種類、挟み込み式とねじ込み式があります。



どちらの方式にも金属製と樹脂性があります。多くのボードアンカーは下穴を必要とし、また耐荷重や対応できる壁の厚さが異なるため、利用の際にはメーカーの説明する使用方法をしっかりと確認してください。

重量物を取り付けるのであれば挟み込み式を利用します(エアコンの室内機を取り付けることができる製品もあります)。また、それほど耐荷重を必要としないのであれば、ねじ込み式のボードアンカーには、下穴をあける必要のない製品もあり、手軽に使えて便利と評判です。

次回予告

次回からは「アンカーボルト」、「あと施工アンカー」、「ボードアンカー」を詳しく取り上げていきます。まずは「埋込アンカーボルト」を取り上げます。


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