「ねじはなぜ緩む?」 前編 ねじはなぜ締まり、緩むの?

「ねじ締結」の長所は部品同士を非破壊で簡単・短時間に接合・分解できること。なぜねじが締結できるかを知ると、なぜ緩むのかが見えてきます。そして、その予防策も。



「ねじの豆知識」  ねじはなぜ緩む?
前編 ねじはなぜ締まり、緩むの?
後編 ねじの緩みを防ぐ「ナット(ロックナット)」



ねじ締結の利点と重要性

二つ以上の部品を組み合わせ繋ぎ合わせるには接着や溶接、ねじ締結やかしめ等の機械的接合が利用されます。

ねじや溶接によって接合されている

それぞれに長所・短所がありますが、「ねじ締結」の長所は何といっても「任意の時に部品同士を非破壊にて簡単・短時間に接合・分解・調整できる」ことでしょう。ドライバーやスパナでねじを回せば固定できますし、反対に回せば簡単に緩んで結合を解くことができます。他にもこんな利点がねじ締結にはあります。


分解・再利用が可能
溶接は一度接合すると分離することは困難ですが、ねじ締結なら容易に分解し、部品の交換やメンテナンスが可能です。


部材が熱の影響を受けにくい
溶接では高温による材料の変質が問題になることがありますが、ねじ締結はほとんどの場合で、熱を加えずに組み立てが可能です。


締結力の調整が容易
接着や溶接は、一度固まると調整が難しくなりますが、ねじ締結は簡単に調整できます。


さまざまな材質に対応可能
溶接は金属にしか適用できませんし、接着は接着剤の種類によって適用できる材質が限られます。しかしながらねじ締結は、金属、プラスチック、木材など幅広い材料に対応できます。


このようにねじ締結はその汎用性と利便性から、多くの分野で欠かせない組立の技術となっています。しかしながら、ねじ締結は完全に固着させて一体化しているわけでないので、意図せずに緩んでしまうという大きな弱点があります。
一度ねじが緩んでしまうと、被締結体の分離や脱落が生じたり、固定されている被締結体のすべりが起きたり、気密漏れやボルトの疲労破壊など、重大な事故に至りかねない事態が生じます。


ねじの緩みによりナットが落下

こうした「ねじが緩む」事態を防ぐ対策を立てるためには、なぜ意図せずねじ締結が緩むのかを理解する必要があります。そのためには「急がば回れ」、なぜねじで締結できるのかを理解することが早道です。
これから、ねじが“なぜ締結”できるのか、また、人為的な働きかけをしなくてもねじは“なぜ緩む”のか(つまり自然に意図せずねじは緩むと感じてしまうのはどうしてか)、そして“ねじの緩み対策”について考察していきます。


ねじ締結の原理

端的に言うと、「ねじ締結」は主にボルトの軸に発生する力「軸力」と、ねじと部材との間の「摩擦力」を利用して部材同士を固定します。軸力がどのように部品同士を接合するのかを理解するために、本を数冊、一度に持ち上げるところを想像してみてください。


一度に数冊の本を持ち上げてみる

複数の本を手で強く掴むと、本をそのまま持ち上げることができます。本を左右から抑えつける力(クランプ力)が十分大きいなら、大きな摩擦力が働き持ち上がります。ます。しかし、押さえる力が弱いと持ち上げることはできません。
この本を両側から押さえつける力の役割を果たすのが、ボルト・ナットを締めることで発生する「軸力」です。軸力がボルト・ナットと被締結物の接触面で強い面圧を生み出し、この摩擦力が締結状態を維持します。



なぜ、ボルト・ナットを締め付けると軸力が発生するのでしょうか?
被締結物にボルトを通してナットで締め付けるとどんなことが起きるのかを考えてみましょう。ナットを回すとボルト先端に取り付けたナットが移動し、やがてナットは被締結物に着座し動けなくなります。

それでもナットを回し続けると、今度はボルトの軸が引き延ばされます。ボルトは固く、変形などしないように見えますが“弾性体”です。ボルトの軸が引っ張られることで軸方向に張力(軸力 予張力とも呼びます)が発生します。この時、被締結材も弾性体ですから押しつぶされたら元に戻ろうとする反発力を生じます。生まれた軸力と反発力は拮抗して締結部に蓄えられます。
ただし、ボルトの限界を超えて回してしまうと軸が塑性変形(永久変形)してしまい、緩みの原因となりますので注意が必要です。


軸力発生のメカニズム

この弾性力によって生じた軸力(と反発力)がある限り、着座したナットやボルトの頭は座面に強く押し付けられ、生じた摩擦力がボルト・ナットの回転を防ぎ、ボルトの軸が引き延ばされた状態が保たれます。軸力は保たれ、ねじ締結部分は固定され続けます。また、外部から力が加わっても、この軸力によって生じる摩擦力のほうが十分に大きければ、ねじは緩みません。つまり、ねじはしっかり締めることで、軸力による安定した締結を実現しているのです。


パイプフランジを止めるボルト・ナット

なぜねじは緩む?

ねじ締結は溶接のように部材が完全に「一体化」されないため、何らかの理由でねじの軸力が低下すると、固定する力となっていた摩擦力も減少し、ねじは「緩んで」しまいます。
この「ねじの緩み」、大きく「回転ゆるみ」「非回転ゆるみ」に分類されます。


回転ゆるみ

回転ゆるみは、ねじが外部からの振動や衝撃といった外力を受けることで、ナットやボルトが徐々に回転して緩む現象です。これは特に機械の振動が大きい環境で発生しやすく、ねじが意図せず回転することで軸力が低下し、最終的に締結が緩んでしまう可能性があります。


回転ゆるみの主な要因
•振動や衝撃によるゆるみ方向へのボルト・ナットの回転
•温度変化による材料の膨張・収縮
•ねじ山の微細な滑り運動


非回転ゆるみ

非回転ゆるみは、ねじが回転することなく、軸力の低下によって緩む現象です。例えば、寒暖の差によって生じる外部からの繰り返し荷重によるねじや締結部材の塑性変形により、また、材料の初期の馴染みやへたり(長期間荷重がかかることで生じる変形 クリープとも呼ばれます)によって“座面が沈み” 締結力が低下してしまいます。


非回転ゆるみの主な要因
•部材の圧縮変形や摩耗
•繰り返し荷重による塑性変形
•高温環境によるクリープ変形


ねじの緩みを防ぐための締結技術

ねじの緩みは製品の破損や分解を引き起こし大事故につながるため、ねじを「緩ませない」ことや緩みを「早期発見」して対策することが重要となってきます。
ねじを緩ませないためには、締結体として十分な強度を持つように設定された「適正な締め付けトルク値」でねじ締めを行うことが大切です。そのためにトルクレンチやトルクドライバーを用いて締め付けトルクを管理する「トルク法」が一般的に行われます。


トルクレンチを使用したねじ締め作業

また、締め付けの回転角度とねじに発生する締め付け力が比例することを利用して回転角度で管理する「回転角法」、あるいは締め付け回転角に対する締付けトルクの勾配の変化で管理を行う「トルク勾配法」、さらにはボルトの伸びを超音波などで精密に測定してその伸びから締め付け力を測定する方法などによって、締め付けトルクを管理することが行われます。それぞれある程度の技術や作業のための時間が必要になることや、ボルトの降伏点や伸びを測定するための計測器は高価であることがデメリットです。

このようして適正な締め付けトルク値でねじ締めできても、ねじ締結は「任意に分解できる」ために「絶対に緩まない」と断言できません。それで、打音検査等で緩みを発見し、増し締めして適正な軸力を保たせます。これがねじ締結に定期的なメンテナンスが必要な理由です。例えばこちらの写真をご覧ください。


歩道橋の欄干

ベースを固定しているボルト・ナットへのマーキング

締め付けたボルトにペイントして、万一緩みが生じても簡単に目視することができる工夫がなされています。このようなねじ締結の日常的なメンテナンスの手間を省く工夫がいたるところでなされています。

このように考察してくると、ねじの緩み-軸力の減少-を防ぐために①ボルト・ナットを緩み回転させない②座面の陥没を防ぐ、あるいは ③失った軸力を補う、が達成できれば、安全性を高めねじ締結の信頼性を高めることができます。また、メンテナンスの頻度を抑えることができるのでランニングコストを抑えることができます。様々なゆるみ止め製品のナットが提供されているのはこれが理由です。


遊具に使われているプリベンティブトルク型のゆるみ止め機能を持った袋ナット


次回は、代表的なゆるみ止めナット(ロックナット)をいくつか見てみましょう。


参考:ダブルナット

ボルト・ナットの緩みを防ぐ伝統的な方法として「ダブルナット」と呼ばれる手法があります。文字通り二つのナットを重ねて締結物を固定します。かつては広く活用されていましたが、現在では他の方法がゆるみ止めとして活用されるようになってきています。


ダブルナット

下ナットを締付けて、次に上ナットを同様に締付けるだけでは「ダブルナット」とは呼べません。「ロッキング」がなされなければ、振動環境等でねじの戻り回転を防止する機能はほとんどありません。

ダブルナットは上下のナットを羽交い絞めにすることで成立します。羽交い締めの方法としては、①上ナット正転法と②下ナット逆転法があります。

上ナット正転法は、規定トルクで締めつけたナットの上にもう一つのナットを締め付け、最後に下ナットをスパナ等で固定しておいて上側のナットを強く締め付け(正転させ)羽交い絞めします。

下ナット逆転方では、下ナットを締め付けた後もう一つのナットを締め付けるのは同じです。最後に、上ナットをスパナ等で固定した後、下ナットを緩み方向に逆転させて羽交い絞めにします。

羽交い締めすると下ナットはボルトのねじ山をボルト軸方向に押し下げ、逆に上ナットはボルト軸方向に押し上げます。こうすることで上下ナットとボルトが固定(ロッキング)されます。ただし、このロッキング力は被締結物を固定するための軸力ではありません。

一般に上ナット正転法は締め付け完了がわかりにくく、下ナット逆転法は、締付けた下ナットを戻すため初期締付け時の締結力(ボルト軸力)は低下します。その低下率は10%~90%とばらつきが大きいです。また、正しく羽交い絞めにしてロッキングするには作業者に高い技術力が求められ、ねじの呼び径が大きくなると一人で作業をするのが困難になります。

そして、ダブルナットの最も大きな課題は、2つ目のナットの適正締め付けトルク値の計算式がないため、適正なトルク値を算出することができないことです。

このように「ダブルナット」は現在の技術としては問題が多く、緩み止めとして別の解決策が広く利用されるようになっています。


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