ねじの豆知識 アイボルト・アイナット 第二回 安全な使い方
ねじの豆知識 アイボルト・アイナット 第二回では、手にしたアイボルト・アイナットを安全に使用する方法についてお話ししたいと思います。
ねじの豆知識 アイボルト・アイナット
第一回 アイボルト・アイナットとは
第二回 安全な使い方
第三回 規格と安全性
今回は、手にしたアイボルト・アイナットを安全に使用する方法についてお話ししたいと思います。
アイボルト・アイナットの刻印の意味
アイボルト・アイナットを手にすると、「刻印」があることに気づきます。これはJISに「製品の表示」として定められたもので、アイボルトは「ねじの呼びM16以上のボルトに,原則として座の円筒部又はその他適当な箇所にねじの呼び及び製造業者の略号を表示」することになっています。
アイボルトの表にはメーカーを示すアルファベットが刻まれています。
アイボルトの裏にはサイズと使用荷重、そして製造年が刻まれています。
また、アイナットも「ねじの呼びM16以上のナットには,原則として座の円筒部又はその他適当な箇所にねじの呼び及び製造業者の略号を表示する」と定められています。この刻印の内容を知ることも安全な使用につながります。
「刻印」はアイボルト・アイナットを安全に使用するための情報を提供してくれます。では、これからアイボルト・アイナットを安全に使うために押さえておくべき基礎知識を見てみましょう。
使用荷重を順守
重要保安部品に指定されているアイボルト・アイナットにはJISで設定された「使用荷重」があります。
重量物の吊り上げでは必ず使用荷重が吊り上げ対象物の重量を超えるサイズを選びます。
使用個数を増しても使用荷重は変わらない
第一回でも触れましたが、一つの吊り荷に2個や4個のアイボルト・アイナットを使用したからといって、使用荷重が2倍、4倍とはなりません。吊り上げや移動時の傾きや揺れによってすべてのボルトに均等の荷重がかかるとは限りません。何かの拍子に1個にすべての重量がかかる場合もあります。それで吊り荷に対して同時に使う個数にかかわらず、その吊り荷に対してはアイボルト・アイナットの使用荷重が適用されます。
使用方法に関する注意点
横吊り・引き起こしはしない
アイボルト・アイナットはねじの軸に対して縦方向に荷重をかける設計となっています。横吊りや引き起こしに使用すると破断する恐れがあります。それで、横吊り・引き起しの使用は事故の原因となりますので禁止されています。なお、チェーンの止め輪等として横向きに取り付けるなどの大きな荷重のかからない仕方の利用はできます。
取付は必ず手で回す
アイボルト・アイナットは必ず指(手)で回して取り付けることがJIS規格で定められています。手回しで受け側に密着させることで吊り上げ能力を十分に発揮できます。リング部に鉄棒、パイプなどを通して締め付ける事は絶対にしないでください。本体及び設置部分が破損する恐れがあり大変危険です。
座面と対象物の面は必ず密着させる
アイボルトの着座面が相手から離れると、吊り上げ・吊り下げ・移動の際にアイボルトの逃げ部に曲げモーメントやせん断力が加わり、変形や破断が生じる弱点となります。アイナットの場合も、着座面との間隙部分の露出したアンカーボルトに曲げモーメントやせん断力が集中し弱点となります。それを防ぐため必ず座面を対象物に密着させてください。受け側の形状が曲線や凸凹の場合は、ザグリをして座面が必ず密着するようにしてください。
受け側の材質は鉄
JISはアイボルトを受ける側の材質は鋼または鋳鉄とすることを規定しています。受け側材質が木材やコンクリート等の場合には、インサートナット等で補強してください。アイボルトを材やコンクリート等の荷にじかに取り付けての吊り上げ作業は絶対に行わないでください。
また、アイナットを取り付けるための植込みボルトは材質・長さ・精度がアイボルトに準じたものとしてください。
吊り上げ作業時の吊り荷の急激な移動は厳禁
荷物を吊り上げたり左右に移動させる際、急に速度を上げたり急停止したりせず、必ずゆっくり移動させてください。加速度によりアイボルト・アイナットに想定以上の負荷がかかり破断する可能性があります。
表面欠陥のあるアイボルト・アイナットは使用しない
使用状況により、曲がり、割れ、キズ等が発生したアイボルト・アイナットは事故の原因となります。絶対に使用せず必ず新しい製品に交換してください。定期的な点検をおすすめいたします。その際、刻印の製造年を参考にできます。
また、錆による腐食部には亀裂が発生しやすいため、めっき処理がなされていない表面処理「生地」の鋼製品では、使用の前にねじ部に油脂類を塗布してねじ部を保護するようにしてください。
2個吊り(複数個吊り)の注意点
リングの向きは同一平面・同一方向
2個のアイボルトのリングの向きが違うと、荷重がかかった時にその力によってボルトが回り、座面が相手から離れます。するとアイボルトの逃げに曲げモーメントが加わり、変形し破断するおそれもあります。ザグリをするか適当な座金を入れるなど調整して、リングの向きを必ず同一平面内にしてください。
アイナットでも、座面が浮くことで植え込んだボルトに過度の負担がかかり変形・破損の危険があるため、リングの向きを調整して同一平面内におさめます。
吊るときの角度は45度以上
物体を吊る角度はなるべく大きい方が、アイボルトにかかる曲げモーメントが小さくなります。それで吊るときの角度は45度以上、出来れば60度以上が望ましいとされています。
1本のワイヤーを複数リングに通さない
1本のロープやワイヤーを複数のリングに通すと横に引っ張る力によりアイボルト・アイナットを回転させる力が発生し、緩みにつながるため大変危険です。複数のアイボルト・アイナットに対して1本のワイヤーの使用は絶対にしないでください。たすき掛けは不可です。
今回はここまでです。これらの注意点を守ることでアイボルト・アイナットを安心・安全に利用できます。
次回はアイボルト・アイナットの安全・安心を担保するために行われていることに注目します。