「ねじの豆知識」 アイボルト・アイナット 第一回 アイボルト・アイナットとは

今回のねじの話では、「アイボルト」「アイナット」について深堀したいと思います。アイボルト・アイナットとはどんなものか、その規格や使用上の注意に迫ってみましょう!

「ねじの豆知識」 アイボルト・アイナット 
第一回 アイボルト・アイナットとは
第二回 安全な使い方
第三回 規格と安全性(近日公開)


“アイボルト”・“アイナット”ってご存じですか?


皆さんは街中でこんな金具を見かけたことはありませんか?

神戸メリケンパークにて

神戸市内の百貨店にて

見覚えがありましたか?

この金具、締結部品の一種で、名前は “アイボルト”と言います。

冒頭の写真のアイボルトは、メリケンパークの水門制御盤の上部に取り付けられていました。工場で製作した重量のある制御盤をクレーンで釣り上げて車両に積み込み、輸送先でもクレーンで吊り上げて設置や移動するために取り付けられています。こうした重量物のつり上げがアイボルトの主な使用方法です。

水門操作盤の上面に設置されたアイボルト

もう一枚の写真も神戸市内で見かけたアイボルトです。エスカレーターに乗った際に、頭や体が挟まれないための遮蔽板をぶら下げていました。このように鎖やフックをひっかけるための固定リングとしてもよく用いられています。

遮蔽物を吊り下げているアイボルト

このアイボルト、英語では “eye bolt” と書き、丸い目のようなリングを持つことを上手に表現していると思います。アイボルトの全体像はこちらです。リングにおねじが取り付けられているように見えます。

アイボルト

アイボルトは“吊り(つり)ボルト”の通称で呼ばれることもあります(古い規格【臨JES第710号】に 「吊りボルト」の規定があり、厳密には現在のアイボルトと同一ではありません)。

そして、リングにナット(めねじ)が組み合わされたものが “アイナット(eye nut)” です。

アイナット

今回のねじの話では、このアイボルト・アイナットについて深堀したいと思います。アイボルト・アイナットとはどんなものか、その規格や使用上の注意に迫ってみましょう! また、安心安全に使用できるための取り組みにも注目します。

今回は「購入するならこれだけは知っていてほしい」アイボルト・アイナットの基礎知識をお伝えします。


アイボルト・アイナットとは

アイボルトやアイナットの一般的な使用方法は、リング部にフックや金具、ワイヤーやロープ等を通し、クレーンやホイスト、チェーンブロック等を使用して重量物を吊り上げる(吊り下げる)ことです。

アイボルト・アイナットの基本的な使用法

人手で簡単には動かせない大型部材や機械器具類や金型等の、非常に質量の大きな荷の吊り上げや移動・位置決めを行う業界での需要が旺盛です。例えば、藤本産業では高速道路の遮光・遮音壁を専門に製造する企業に大量に納入しています。

重量物吊り上げ用というその性質上、アイボルト・アイナットの破損は即重大事故につながるため、JISでは「重要保安部品」と定め、その規格に基づいて製造されます。ちなみにアイボルトのJIS規格は【B 1168-1994】、アイナットの規格は【B 1169-1994】です。

あまりなじみがない締結部品かもしれませんが、アイボルト・アイナットは正しく使用すればコスパに優れるとても有用な荷役用のファスナーです。便利に使える縁の下の力持ちとして陰ながら私たちの生活を支えてくれています。その気になれば皆さんも意外に身近なところで発見できると思います。


アイボルトのサイズ・寸法・使用荷重

アイボルトの形状はJISによって規格化されています。主な形状と寸法は以下のようです。

標準

標準型アイボルトの図面

参考:アイボルト標準長さの寸法表


足長

アイボルト足長の図面

参考:アイボルト足長寸法表


アイボルトは呼び径(ねじのサイズです。おねじの外形が基準です)によって吊り上げることのできる重さ「使用荷重」が決まっています。ですから、吊り上げたい物の重量によって使うべきサイズが決まります。例えば100㎏の重量物を吊り上げたいのならM10以上のサイズの製品を使用する必要があります。

この時複数のボルトを使って吊り上げても、「使用荷重」つまり吊り上げることのできる荷の重量は増えません。45度吊り(アイボルト・アイナットを一つの吊り荷に2個つけること)としても2倍の重さを吊り上げることはできず、1個の時と変わりません。何らかの理由で荷重が1個のボルトだけに集中してしまうことがあることを考えると、安全性に配慮したこの規定に「なるほど!」と思います。

アイボルトのサイズが同じなら、複数を使用しても吊り上げることのできる荷の重さ「使用荷重」は同じ

ボルトや小ねじ等ホームセンターでよく見かけるおねじ類と異なり、アイボルトは一つの呼び径に対してねじ部の長さは標準と足長と呼ばれる2種類しかありません。このようにねじ部長さが限られているのは、使用目的・方法が他のボルト類と異なることが理由です。

同じ呼び径(M16)のアイボルト
左:標準 右:足長


一般的なボルト類は頭部とナットで部材を挟んで圧縮して予張力(軸力ともいう)を生じさせることで締結します。それで、部材の様々な大きさ(厚み)に対応できるようにサイズも多様になっています。

一方、アイボルトは部材の上面に固定して吊り上げるので、相手ごとに長さを変える合理的な理由はありません。また、結合部の強度が非常に重要です。標準タイプのねじ部長さがあることで、吊り上げ時の荷重に耐えるのに必要十分な強度を得られます。それで、受ける側の材質もJISに規定されています。鉄(鋼または鋳鉄)で、引張強さは 392N/㎟が必要とされています。

受け側の材質は鉄


受け側がコンクリート等の場合は、インサート(製品製造時に先埋めするめねじ穴金具)を埋め込む等でねじ受け部分の補強が必要です。

JIS規格での呼び径も次の通りで比較的限られています。M8, M10, M12, M16, M20, M24, M30, M36, M42, M48, M64, M80×6, M90×6, M100×6。これらのうちM80, M90, M100は、「細目(さいめ)」です。一般に使用されている「並目(なみめ)」より細かなピッチのねじ山が採用されています。

M36などの大型のものは金型の移動などに用いられることが多いようです。例えばこちらの写真のM100アイボルトは4.5トンの重量物の吊り上げに用いることができ、自身の重量は47㎏にもなります。

M100のアイボルト 

なお、各アイボルトメーカーがJISにはないサイズのアイボルトをJISに準じた仕様を定めて製造しています。


よく観察すると、アイボルトはねじの取り付け部(首下)に逃げ部(「ヌスミ」とも言われるねじ山が無く細くなっている部分)があることに気づきます。この逃げ部を設けることで、ボルトの着座面がねじ受け部に密着して十分性能を発揮できるようになっています。

首下に設けられた逃げ部 
応力集中を避けるためRがつけられている

※アイボルト・アイナットの使用方法やその注意点に関しては次回で詳しくお伝えします。


アイナットのサイズ・寸法・使用荷重

アイナットの形状もJISによって規格化されています。主な形状と寸法は次のようになっています。

アイナットの図面

参考:アイナット寸法表

アイナットもアイボルトと同様、十分な強度を保証するため、呼び径に対してねじ部の長さは1つに決まっています。六角ナットのような薄型はありません。また、アイナットを取り付けるおねじに関してはアイボルトと同等の強度(引張強さ392 N/㎟以上)が求められます。

アイボルト同様、アイナットも呼び径によって吊り上げることのできる重さ(使用荷重)が決まります。それで吊り上げたいものの重量によって使うべきサイズは決まります。呼び径ごとの使用荷重はアイボルトと同じ値になっています。また一つの荷に複数のナットを使っても使用荷重は1本の時と変わりません。この点もアイボルトと同じです。

JISに規格化されているアイナットの呼び径は次の通りです。
M8, M10, M12, M16, M20, M24, M30, M36, M42, M48, M64, M80×6。M80は細目です。
それ以外のサイズはJISに準拠する形で各アイナットメーカーが作成しています。

アイナットも受け側と密着させるために、着座面のねじ部に大きな面取り(ヌスミ)があります。これによって着座面でしっかり荷に密着でき、性能を発揮します。

アイナットの着座面の拡大

ここまで見てきたアイボルト・アイナットの基礎知識を振り返ってみましょう。
アイボルト・アイナットは重量物を吊り上げるために用いるシンプルでリーズナブルな締結資材です。吊り上げる荷の重量が決まれば「使用荷重」をもとにサイズを選定することができます。ただし、アイボルト・アイナットの数を増やしたとしても、吊り上げることのできる荷の重さは変わらないことに注意が必要です。もちろん、大きな荷重のかからない用途で使用することもできます。


アイボルト・アイナット 第二回」では安全に使用するために必要な知識を取り上げます。

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