「ねじの豆知識」 エンザート Vol.4

私たち藤本産業が取り扱っている様々な「ねじ」をご紹介しその世界を少し味わっていただけたら嬉しいです。
今回はケー・ケー・ヴィ・コーポレーション株式会社製雌ねじ補強用インサートナット「Ensat® ―エンザート―」のVol.4 “下穴の設定” です。

Vol.1 「エンザート」とは
Vol.2  形状
Vol.3 相手材ごとの適性
Vol.4 下穴の設定
Vol.5 エンザートの工具と機械を用いた挿入
Vol.6 エンザートのハンドツール挿入

下穴の設定

下穴径

エンザートの機能を十分に発揮させるには刃先を相手材にセルフロックさせることが重要です。そのためにはエンザートの下穴径を慎重に決定し、相手材の被削性や加工性によっての微調整が求められます。
エンザートを使用する場合には必ず試作を行い下穴径の選定をします。被削性の悪い材質ではこのことは特に重要となります。

一般的な材料に対し推奨されている下穴径は次のようです。

表中 Rm:引張り強さ(単位はN/mm²)
鋼材の引張力に対する最大強度。

表中 HB:ブリネル硬さ
工業材料の硬さを表す尺度の一つ。記号はHB。1900年にスウェーデンの工学者であるヨハン・ブリネル(Johan August Brinell)により考え出された。焼きの入った鋼球もしくは超硬合金球を試料に一定の荷重で押込み、その時にできたクボミの表面積を、押込み荷重で割った値で求める。

下穴は相手材ごとに設定された引っ掛かり率を目安にします。

※ SMC(Sheet Molding Compound)とBMC(Bulk Molding Compound)は不飽和ポリエステル樹脂を使った代表的な熱硬化性成形材料です。

ここでの “引っ掛かり率” とは
“エンザートの外径ねじがどれだけ母材と噛み合っているか”
を表した数字で次のように計算します。

【引っ掛かり率(%)】=
【ねじ山の引っ掛かり高さ】÷【外径ねじ山高】×100

引き抜き強さに関して、割溝タイプは引っ掛かり率30%で、三つ穴タイプは50%でほぼ最大の強さが得られます。

(図は割溝タイプの引っかかり率と引抜強度)

エンザートはセルフタッピングすることで母材へしっかりセルフロックします。下穴径が大きすぎるとエンザートの母材への固定が不十分になり、空回りなどして接合強度不足の原因となります。

また、小さすぎる下穴径もトラブルの原因になります。加工トルクが過大になり工具や装置の破損を引き起こします。挿入加工の最終段階でピッチ遅れ-エンザートが1回転に対して1ピッチ分前進することができなくなること-が生じ、挿入加工前半と後半のピッチ送りの差によりエンザートが軸上方へ強く圧迫されることになります。このことにより母材に噛み合っているエンザートの外周ねじ山が損傷し結果として緩みを生じます。

下穴の深さ

通し穴の場合 : エンザートの長さ以上 とします。
止まり穴の場合 : エンザートの長さ×1.2 とします。

止まり穴では切り粉の逃げ場を確保する必要があります。
※ 穴の深さに先端のテーパー部分はカウントしません。

下穴の面取り

下穴に面取りをすることで材料面よりも深くエンザートを入れることができるので接合時に想定外の隙間を生じません。また、加工工具と相手材表面との衝突を防ぐこともできます。

(1) 金属・軟質プラスチック
60°×(エンザート外ねじ1ピッチ深さ)

(2) FRP、ベークライト等割れやすい樹脂 
垂直面取り(DA) (エンザートの外径+0.2-0.4mm)×(外ねじ1ピッチ a

壁の厚さ

母材の材質や弾性によって下穴から母材端までの安全な長さ(図S)が異なります。
目安は以下のようです。

鋳鉄  (0.30-0.5)×(d2:エンザートの外径)
軽金属 (0.25-0.5)×(d2)
樹脂  (0.25-0.9)×(d2)
木材   材質ごとに試作の必要があります。

下穴径を含めいくつもの要素を考慮して下穴の設計をすることが、エンザートを十分に機能させ質の高いねじ締結を実現するカギと言えます。

次回はエンザートの加工と工具の話です。

「エンザート」に興味をお持ちの方はどうぞこちらから弊社へお問い合わせください。

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