「ねじの豆知識」 “超強度”14.9六角穴付ボルト Vol.1
私たち藤本産業は締結資材「ねじ」の専門商社です。ですから取り扱い商材のメインは締結資材です。「ねじ?だけ!」と思われるかもしれませんが、実は奥深い世界が広がっています。私たちが取り扱っている様々な「ねじ」をご紹介しながらその世界を少し味わっていただけたら嬉しいです。
今回から全4回で「“超強度”14.9六角穴付ボルト」をご紹介いたします。
Vol.1 14.9超強度六角穴付ボルトとは?
Vol.2 耐遅れ破壊特性
Vol.3 疲労破壊耐性
Vol.4 耐候性
14.9六角穴付ボルト
藤本産業「14.9六角穴付ボルト」カタログは次の様に紹介が始まります。
14.9六角穴付ボルトは、日本の高い技術力を誇る一流メーカー(由良産商㈱、㈱極東製作所、㈱神戸製鋼所)のコラボレーションにより開発した新たな高強度固定ソリューションです。
この商品は「耐遅れ破壊特性」に優れた高強度ボルト用鋼が採用され、引張強度1,400N/mm²を誇りながら9%以上の伸びを実現します。
さらに航空宇宙用の「MJねじ」の採用により14.9六角穴付ボルトの耐疲労性を向上しています。超強度と超強度による締結力、及びねじ精度の向上による緩みの防止がメンテナンスにおける問題を解決します。
業界人ならこの解説だけで商品の特性を理解し、詳細なデータを確認したいと思われるでしょう。しかし業界外の方は「???」ではないでしょうか?恐らくこのファスナーの真価を十分理解していただくのは難しいと思います。そこで、このファスナーの魅力を専門外の方たちにもできるだけ伝わるように工夫しようというのがこのシリーズです。
六角穴付ボルト
先ずは“六角穴付ボルト”について簡単にご説明させていただきます。この六角穴付ボルト、こんな形状をしています。写真と図をご覧ください。
頭部に六角形の穴(ドライブ溝やリセスと呼ばれます)があるため「六角穴付ボルト」と呼ばれています。キャップスクリュー、キャップボルトの名称もあり私たちは「キャップ」と呼ぶことが多いです。実は機械や車両等の一般的な締結に広く使用されているボルトです。ですから、目にしたことはあってもなかなか名前まではご存じない方が多いのではないかと思います。
この形状は意外に古くから存在します。20世紀の初めの頃、四角ボルトの頭部が衣服などに引っ掛かり作業者を危険にさらすことを改善するために発明されました。ボルトの外側ではなく内部の六角穴リセスで締めるようにすれば頭部が円形のボルトを作れます。角がないので作業者や近傍の人を傷つける危険を大幅に減らすことができます。
そして+ドライバーでのねじ締めで問題となるカムアウト(+ドライバーの形状ゆえにねじに回転力を加えるとドライバー先端がねじ溝から浮き上がろうとする現象 ねじ穴を潰してしまう原因となる)が起きず、レンチとリセスの接触面積が大きいので高トルクで締結できます。
さらに「六角ボルト」に比べると六角穴付ボルトは頭部が小さく、締結に必要なスペースが少なくて済むという特徴もあります。六角ボルトは頭の外側に工具をかけるスペースが必要ですが、キャップボルトは頭の中心に開いているリセスへ工具を差し込むため、工具のためのスペースを外側に必要としません。そのため近接する場所で複数箇所締結しなければならない場合でも隣のボルトとの干渉を気にする必要がなく、作業性も向上します。
また、ザグリ加工をするなら頭部まで完全にワークへ沈めることもできます。
ねじの強度
また、六角穴付ボルトは一般的な六角ボルトと比較して強度が高いという特徴があります。一般の六角ボルト(強度区分4.8)で使われるSS材やSWCH、強度区分8.8の六角ボルトで使用されることの多いS45Cではなく、高強度のSCM材で作成されるため12.9(ただし太径 〈国産はM22~、輸入品はM30~〉は10.9、そしてメッキ付の場合は10.9)という強度を誇ります。そして今回ご紹介している超強度六角穴付ボルトはKNDS4 (㈱神戸製鋼所製高強度ボルト用鋼)を材料とすることで14.9の強度を達成しています。
強度区分
鉄材ボルトは現在主に『4.8』 『8.8』 『10.9』 『12.9』とされる強度区分が一般的で数字が大きいほど高強度になります。数字の意味ですが、強度区分の最初の数字×100( N/mm²)が引張強度、小数点以下の数字を掛けたものが降伏点または耐力を表します。つまり強度区分『4.8』は引張強度400N/mm²、降伏点320N/mm²であることを示します。『12.9』なら引張強度1,200N/mm²、耐力1,080N/mm²です。そして『14.9』は引張強度1,400N/mm²で耐力1,260N/mm²です。
引張強さと耐力・降伏点(降伏強さ)
金属材料を含めどのような材料でも力を加えた瞬間から伸びが生じます。この伸びの初めは力を除けば元に戻ります。これを弾性変形といいます。しかしながら、一定以上の力が加わると力を除いても元に戻らずひずみが残ってしまいます。この状態は塑性変形と言います。さらに力を加えると最後に破断してしまいます。材料に力を加えるとこれらの3段階の変化(弾性変形・塑性変形・破断)が生じ、引張強度(引張強さ)は引張力に対する最大の強度のことです。そして弾性変形と塑性変形の境界の力の大きさを表すのが降伏点(降伏強さ)です。ステンレスや8.8や109などの高強度の鋼材によっては降伏点が明確に存在しないものがあり、0.2%のひずみが残るようになる点を降伏点の代わりの基準点「耐力」としています。
参考:ファスナーに用いられる鋼材の例
SS材
Steel Structureの頭文字をとった一般構造用圧延鋼材を表します。ねじ加工で一般的に『SS材』と言えば、ほとんどの場合SS400を指し、最も使用頻度が高い材料です。後ろの数字は引張強度を示します。SS400ならば、引っ張り強度が400~510N/mm²あります。以前は“SS41”と表されていました。安価で市場によく出回っているため、手に入りやすく、加工性にも優れておりあらゆる分野で使用されています。焼入れ性は無いため、生材のまま使用します。
SWCH(冷間圧造用炭素鋼線)
Steel Wire Cold Headingの頭文字から来ています。ネジやボルト、ナット、リベットなどの材料としてよく知られています。ねじやボルトで使われる場合、条件にもよりますが、強度区分8.8までの製品として使われます。
S45C
機械構造用炭素鋼と呼ばれる高炭素鋼の一種です。S45Cという名称にはそれぞれ意味があり、“Steel(鉄)”“45(0.45%)”“Carbon(炭素)”となります。つまりこれは、炭素の含有量が約0.45%である鉄という事を表します。SS材などの通常の鉄よりも炭素が多く含まれているため、焼入れ性がよく、熱処理を施す事により強度を向上させることができます。ねじではS45C材が一般的に使用されますが、S25CやS50Cなど炭素含有量が異なる材料も多彩にあります。
SCM
SCMとは、クロム鋼に微量のモリブデンを合わせた合金鋼(クロムモリブデン鋼)です。SCMの後に3桁の数字を組み合わせて使われ、SCM435がねじ分野では多く使われます。これは、炭素の含有量が0.33~0.38%(平均0.35%)である事を表しています。
ねじの強度と締結力
ボルトは取り付け部材をボルト頭と反対側にあるナット(や雌ねじ)で挟み込んで圧縮【クランプ】することで締結します。ねじ込まれた際にボルトの軸は引っ張られて伸び、取り付け部材は圧縮されます。そしてボルト・被締結物においてそれぞれの“弾性力”により元の形に戻ろうとする力が生じ、互いに反発しながら均衡し保持されます。このボルトの軸に蓄えられる力が“軸力”と呼ばれます。
軸力が大きくなるほど大きな荷重に耐えることができ、振動や衝撃などの外力に対しても強く抵抗できる緩み難い締結となります。そしてこのねじの軸が耐えられる引張力が大きくなればなるほど軸力を増加させることができます。
鉄材ボルトの強度区分『4.8』は引張強度400N/mm²、降伏点320N/mm²であることを『14.9』なら引張強度1,400N/mm²で耐力1,260N/mm²を意味しました。これらは1 mm²当たりの強さを示していますので、実際のねじの「強さ」はこの値に有効断面積(ねじの軸の面積)を掛けた値です。つまりねじの素材の強度とねじの断面積の積がこのねじの「実力」となります。したがって強度の数字が大きいほど強く締結できますし、同じ強度ならねじの有効断面積が大きい、つまりねじの「呼び径」が大きいほど強い軸力で締め付けることができます。また、強度区分を上げることでねじの「呼び径」を小さくできます。この「ねじの呼び径を小さくしつつも同じ強度が保てる」事は、製品の軽量化やコンパクト化を図るうえで重要な要素となります。
ここまでで強度区分『14.9』というのが非常に高い強度を意味していることと、高強度であることの有用性をお分かりいただけたのではないかと思います。
次回は高強度ファスナーが克服しなければならない「水素脆化」と「耐遅れ破壊特性」についてお話しします。