「ねじの豆知識」 “超強度”14.9六角穴付ボルト Vol.3
私たち藤本産業は締結資材「ねじ」の専門商社です。ファスナーには奥深い世界が広がっています。私たちが取り扱っている様々な「ねじ」をご紹介しながらその世界を少し味わっていただけたら嬉しいです。
「ねじ」の豆知識 “超強度”14.9六角穴付ボルトシリーズの第三回は「“超強度”14.9六角穴付ボルト」のねじの疲労破壊(疲れ破壊)に焦点を合わせていきたいと思います。
Vol.1 14.9超強度六角穴付ボルトとは?
Vol.2 耐遅れ破壊特性
Vol.3 疲労破壊耐性
Vol.4 耐候性
疲労破壊(疲れ破壊)
皆さんも「金属疲労」という言葉を1度は耳にしたことがあるかと思います。私は初めて子供の頃に耳にして「へぇー、金属も疲れるんだ!」とびっくりした記憶があります。1985年8月12日の御巣鷹山に乗客乗員524名を載せたジャンボジェットが墜落し520名が亡くなった「日航機墜落事」は、金属が疲労し亀裂が発生して重大な事故に至る、というプロセスが大いに注目された出来事として今でも強烈に印象に残っています。墜落事故以前に起こした「しりもち事故」の際の圧力隔壁の不適切な修理がもとで、離着陸や気圧の変化等による力が金属疲労を起こしていた圧力隔壁に亀裂を生じさせ破損。そこに客室の加圧されていた空気が殺到して垂直尾翼を吹き飛ばし、機体は操縦不能となって迷走し、御巣鷹山の尾根に墜落してしまったという痛ましい事故でした。
金属疲労(疲労破壊 疲れ破壊)は金属材料に繰り返し長期間応力が加わることで生じます。
降伏点(外力を取り除いても元の形に戻ることができなくなる限界の力の大きさ)より低い負荷でも、つまりボルトに十分に余力がある外力に抵抗している場合でも、応力が集中する局部において繰り返される負荷により微細亀裂が生じ、亀裂が進行してやがては荷重に耐えきれなくなり破断してしまうのです。
疲労破壊は破壊面に独特の貝殻状波紋が見られるのが特徴です。
繰り返し荷重を受けるねじ部品の疲労破壊は、そのほとんどが最大応力の生じるナット座面に近いボルト第1ねじ谷底付近で発生します。また,同じく大きな応力集中が発生するねじの切り上げ部(不完全ねじ部)や「首下」で疲労破壊が生じることもあります。
14.9六角穴付ボルトは航空宇宙用の「MJねじ」の採用により耐疲労性を向上しています。今回はこの点をもう少し見てみましょう。
「MJねじ」による「切欠き効果」の低減
繰り返し荷重下でのねじ山応力点を示す次の画像をご覧ください。色が濃くなっているほど応力が集中していることを示しています。
ボルトのねじの谷底の部分に応力が集中している様子がはっきり観察できます。この応力集中部に繰返し応力が加えられることでミクロな亀裂が成長し、やがて破断します。
ねじの谷底の様な「切欠き部」において応力が集中することで「疲労強度」が下がることは「切欠き効果」と呼ばれています。この「切欠き効果」を緩和するのには切欠き部(ボルトの場合はねじの谷底)の半径をより大きくすることが有効であることが知られています。
次のねじ山の図をご確認ください。
MJねじは、航空機、ロケット、宇宙ステーションで使用されている「航空宇宙用メトリックスレッド」というものです。 MJねじ規格は、ISO 5855で指定されており、ご覧のようにねじ谷底の半径は一般品より大きく、ピッチ径の公差は一般的なメートルねじよりも精密です。ねじ谷底の半径が大きなMJねじ規格は、切欠き効果が小さくなり一般品よりも疲労耐性に優れていることがご理解いただけると思います。
また、不完全ネジ部の丸みの比較もご覧ください。
14.9超高強度六角穴付ボルトは面取り丸みつけダイスを使用して不完全ねじ部(ねじの切り上げ部)の谷底のアールを大きくし、やはり応力集中を緩和しています。こうした工夫によって14.9超強度六角穴付ボルトはボルト単体として優れた疲労耐性を得ています。
「ねじ締結体」における耐疲労性の向上
次いで「ねじ締結体」としての疲労破壊耐性についても考えます。「ねじ締結体」つまりねじによって締結されたオブジェクトにおいて、外力による負荷でボルト・ナットが変形しやすいと、ボルト・ナットの疲労が進み疲労破壊の危険は増します。この状況は外力によってボルト・ナットの接合面が被締結物から離れた状態になると顕著に生じます。それで「ねじ締結体」を構成しているボルトが疲労破壊しないためには、被締結体同士が離れない様に高い締め付け力によって軸力を高めることが大変重要となります。この点で14.9超強度ボルトは一般の六角ボルト(強度区分8.8)やキャップボルト(10.9 or 12.9)使用時よりもさらに強い締め付け力を用いる設計ができるため、疲労破壊しにくい「ねじ締結体」となります。
「ねじ結合体」の疲労破壊の回避のためにはボルトの内外力比を小さくするという方策も有効とされています。これはボルト締結体に加わる外力の変動によるボルトの引張内力の変化を小さくするということです。このことはボルトがより伸びやすく被締結物をより縮みにくくすることで達成できます。14.9六角穴付ボルトは引張強度1,400N/mm²でありながら9%以上の伸びを実現し、強度区分12.9のSCM鋼製よりも伸びやすくなっています。
ボルト・ナット締結体では正しく設計され適切な軸力で締結されていれば外力が作用してもボルト軸部に作用する内力はかなり小さくなります。しかしながらボルト・ナットが緩んで軸力が低下すると、ボルトにかかる応力の幅が相当大きくなって疲労破壊に至る可能性が高まります。公差4g6Hの精密な「MJねじ」はめねじとの嵌合をより確実にして緩みの防止に役立ち、このことは締結部の信頼性を高めメンテナンスも向上させます。
ここまでで14.9超強度六角穴付ボルトが、形状の工夫と伸びの良さにより高負荷な条件において高い疲労耐性を有し、締結部分に対してもより高い締結力を与えることで「ねじ単体」としても「ねじ締結体」として見ても「疲労破壊」に強いことを確認しました。信頼できる優れたファスナーであることを皆さんにお伝えできたでしょうか?
次回14.9六角穴付ボルト編最終回は、長期使用可能な耐性を持たせる表面処理に注目します。