ねじの豆知識 植込みボルト(スタッドボルト)第2回 植込みボルトの挿入と引抜 頭のないファスナー達
第1回 植込みボルトとは 形状と規格
第2回 植込みボルトの挿入と引抜 頭のないファスナー達
植込みボルト(スタッドボルト)の挿入と引抜
小ねじ類であればドライバー(いわゆるねじ回し)で、六角ボルトであればスパナなどによって捻じ込みます。しかしながら植込みボルトにはプラスやマイナス、六角穴のような駆動溝(リセスと呼びます)や、工具をかける「頭」がありません。ではどのようにしてワークに埋め込み、また引き抜くのでしょうか?
挿入(植込み)
植込みボルトを埋め込む際には、特別な道具が必要ないダブルナットで埋め込むことや、ロッキングプライヤーでつかんでねじ込むことが手軽なために行われます。しかしながら、スタッドボルトセッターと呼ばれる専用工具を使用するなら、簡単にボルトに傷をつけることなく作業することができます。
まずは“ダブルナット”による挿入にについて解説します。
ダブルナットでは文字通り2個のナットを使用します。植込みボルトのナット側のねじ部に2個のナットを通してボルトの任意の位置で2つのナットを密着させます。できるだけ根元に近いところがおすすめです。根元から離れるほどボルトの弾性により締め付けトルクが伝わりにくくなるためです。
2本のスパナを用いて上側のナットを右回転(通常の締めつけ方向への回転)、下側のナットを左回転(ゆるみ方向への回転)させて羽交い絞めにして“ロック”させます。ロック出来たら、2つのナットを密着させたまま上側のナットを右回転させれば、ボルト全体が右回転するので所定の位置に埋め込むことができます。
ボルトを埋め込むことができたら、再び2本のスパナで2つのナットそれぞれを羽交い絞めにした時の逆に回転させるとロックが解除されます。フリーになった2つのナットを左回転させることでボルトから引き抜くことができます。この方法は、2つのナットを羽交い絞めにしてしっかりロックさせることがポイントです。
植込みボルトを埋め込む専用の工具を使用すれば、より簡単に作業できます。スタッドボルト挿入専用のソケット型の工具は、メーカーにより「スタッドボルトセッター」や「スタッドボルトインストーラー」といった名前が付けられています。

使用の際はラチェットハンドルなどに取り付けたソケットにボルトをセットして締め付け方向に回転させます。ボルトの埋め込みが完了したら、スタットボルトセッターを緩め方向に回すとボルトとのロックが解除されて工具を取り外せます。スタッドボルトセッターとスタットボルトはソケット奥にある鋼球の頂点で接触しているので、ボルトを共回りさせずにボルトと工具は簡単に分離されます。しかし、ボルトの呼び径ごとにセッターをそろえる必要があります

引抜き
植込みボルトの引抜きにも“ダブルナット”や“ロッキングプライヤー”も使えるかもしれません。ダブルナットでなら埋め込みとは逆に、ロックした2個のナットのうちの下側のナットを左回転(ゆるみ方向への回転)させて引き抜けるはずと思えます。植込みボルトを引き抜き交換するのであれば(逆に無傷で引き抜くのは至難の業です)、ロッキングプライヤーでボルトを傷つけてしまうことを覚悟で作業できる気安さがあります。
実は引抜きで問題になるのは、植込みボルトとワーク間の締結は“しばりばめ”となるためかなり強力に嵌合していることです。さらには熱や外力、時間の経過の影響によりボルトが強固に固着してしまう場合が多く、浸透性の潤滑剤をスプレーしたり、ボルトの周りをバーナーで熱するなどしても、“ダブルナット”や“ロッキングプライヤー”では緩めるのが困難な場合のほうが多いです。それで、引抜きには専用工具に登場願うこととします。
スタッドボルトの引抜き工具はいくつかの形状があります。代表的なものはソケットタイプで「スタッドボルト抜き」や「スタッドボルトプーラー」と呼ばれる工具です。

ソケット内にローラーが3組あり、ゆるみ方向へ回転させるとこのローラーがボルト食いつきます。緩み方向に回せば回すほどローラーがボルトに食いついき、頑固に固着したボルトを緩み方向へ回転させます。

ただし、こうして引き抜いたボルトには傷が付くため、必ず傷のない新品の植込みボルトへ交換してください。また、セッター同様に呼び径ごとにそろえる必要があり、引抜きに特化した単機能の工具です。

また、貫通タイプの「ラチェットプーラー」呼ばれるものがあります。こちらも同様に3組のローラーがゆるみ方向に回転させることでボルトに食い込み緩めます。


この貫通型の利点は、長いスタッドボルトを引き抜く際にスタッドボルトの根元近くにまで差し込めるため、力を伝達しやすいこと、また、表裏を逆にすると締め付け作業にも使えることです。逆にソケットタイプでは必要のない工具を取りまわすためのスペースがボルト周りに必要になります。呼び径ごとにそろえなければならないのはこれまで紹介した工具と同じです。
1個で複数の呼び径に対応できるマルチタイプのスタッドボルトプーラーもあります。外見の特徴は外周に刻みが入った偏芯コマです。植込みボルトの正確な呼び径がわからなくても、ボルトがプーラーの穴に通れば引き抜けるのでとても便利です。便利な道具ですが、弱点はボルトとの接点が1か所のため3点接触型のものよりやや滑りやすいこと、またマルチに使えますがそれなりに高価であることです。

ここまで、頭部がなく両端にねじ山が刻まれている一般に“スタッドボルト”と呼ばれるファスナーについて見てきました。似た形状の様々な製品が“スタッドボルト”や“両ねじボルト”“植込みボルト”と呼ばれています。時には同じものを別の名で呼ぶために少し混乱するかもしれません。
“JIS B 1173 植込みボルト”は植込み側がプラス公差となっていることで抜けにくく、植込み側のねじの長さも規格で決まっているので、正しく選択して適正に使用するなら信頼できる締結体を提供します。逆に、植込みボルトを使うべきところに、“植込みボルト”ではない似た形状の“両ねじボルト”や“スタッドボルト”を使用してしまうと、ボルトの緩みなどの意図しない問題が発生してしまいますのでご注意ください。
頭がないおねじ達
「頭がない」おねじ部品は「植込みボルト」「スタッドボルト」以外にもたくさんあります。これからはその中のいくつかをご紹介します。

JISの植込みボルトとは異なり胴部が六角形
例えば「寸切り」。頭部がない筒型のボルト・ねじで、ボルト全体にねじ山が有ります。建築関係でよく使われますし、任意の長さで切り使用できるため治具などにも重宝されます。

同じ建築つながりでは「建築用構造用両ねじアンカーボルト」を挙げられます。「JIS B 1220構造用両ねじアンカーボルトセット」の中で「両ねじアンカーボルト」は「直線状の棒鋼の両端にねじがあり,一方のねじをコンクリート基礎中において定着板に固定して用いるアンカーボルト」と定義されています。建築現場ではほかにも「両ねじボルト」が活躍しています。


また、足の長い両ねじボルトをU型に変形させたものが、配管等を固定するための「Uボルト」です。


机の脚・家具などの取外し可能な連結部分に使用される「ハンガーボルト」は、通常のねじとコーチスクリュー(コーチねじとも呼ばれるピッチの荒い強力な木ねじ)が一体となったボルトです。先のとがったコーチ側を木製の母材に捻じ込み、ねじ部に相手材のめねじ‐鬼目ナットなどのインサートナットや六角ナットなど‐を組み合わせて連結します。

また、名称「スタッド」つながりでは、薄板に溶接しておねじを設置するファスナーにも「スタッド」という名前がついています。板金加工に応用されています。

「ホーローセット」や「イモネジ」と呼ばれる「止めねじ」も、ねじ全体が同じ太さで頭部はありません。ただしこちらは六角穴や十字穴等のリセス(駆動溝)があります。また先端部分も平先、とがり先、棒先、丸先等多様です。部材同士を固定したり、棒状のものに何かを固定するなど、機械部品としてよく用いられています。頭部がないため部材に埋め込めてすっきり仕上げることができます。

頭のないおねじ、意外に多くあるなあ、と思いませんか?
「植込みボルト」の話、楽しんでいただけたでしょうか?そうであれば幸いです。
一目見ただけではみんな同じに見えるボルトやナットのような締結部品も、様々な要求に応えるために日々進化しています。今後も奥深いねじの世界から、皆さんに“面白い”と言っていただけるような「ねじの豆知識」をお届けしたいと思います。