ゆるみを防ぐナット２ | 「ねじの豆知識」| 藤本産業株式会社

ねじ締結の大敵である「回転ゆるみ」「非回転ゆるみ」を防ぐための工夫をした締結部品は数多くあります。前回に引き続き個性溢れるなゆるみ止めナットをご紹介します。

「ねじの豆知識」　ねじはなぜ緩む？　
前編　ねじはなぜ締まり、緩むの？
中編　ねじの緩みを防ぐ「ナット（ロックナット）」その1
後編　ねじの緩みを防ぐ「ナット（ロックナット）」その2

その他の個性的なゆるみ止めナット

変形ねじ山

めねじの谷部を特殊な「くさび形状」を持つ傾斜面に成型した非対称ねじ山の強力な緩み止めナットです。ナット単体で緩み止めとして働きます。

ねじの谷底のくさび傾斜面が、ボルトを半径方向へあたかも圧縮するように作用して荷重を増幅し（クサビ効果）、少ないナット回転角でも高い拘束力を発生してボルトをがっちりロックします。また、全てのねじ山に均等に荷重が分布し緩みにくく、引張強度も高まりボルトの疲労を低減します。

中編で取り上げたプリベリングトルク型とは異なり、締結位置までは手で抵抗無く回せます。そして一般工具で最終締め付けができ、特別な道具は必要ありません。ナットは指定の1方向からの締め付けでのみ機能する為、フランジ形状を採用することでねじ込み時の挿入方向を間違えないような工夫もなされています。

特殊加工

こちらの「スカートナット」はフランジナットと形状は似ていますが、フランジナットは座金部(フランジ部)までねじが成形されているのに対し、ねじ部を一部カットして六角部までとなっています（スカート加工と名付けられています）。

スカート加工部の効果により座面圧力の分布をフランジ外周部に集中させ、かつ、円周方向の分布を均一にすることで、軸に対して垂直にかかる外力や軸方向の振動による生じる緩みを防ぎます。
また、座面外周部にナットの面圧がかかることで座面摩擦抵抗モーメントが増大して、軸方向にかかる振動や繰り返し停止により発生するゆるみも防ぎます。

さらに、ねじ込みの際にナットのねじを切り取った加工部は縮み、逆にボルトは当該部分で伸びることで締め代が増大するため、クリープによる非回転ゆるみの防止効果を持ちます。そしてこの構造によりナット座面が片当たりすることなく、ボルトを湾曲させずに真っすぐ締めこむことでより高い軸力が得られます。

加えて、単体で使用できねじ込みの抵抗もないため作業性は高く、繰り返し使用ができるという特徴も備えています。

くさびの原理を利用

2つの異なる形状の上下組のナットを組み合わせて使用します。特に下ナットのねじ穴の上部外周が偏心しているのが特徴です。

使用の際にはまず下ナットを規定のトルクで締め付け、上ナットを重ねて締め付けます。その際に、偏心したねじ穴外周部によって上ナットが斜めに強く押し付けられます（くさび効果）。これにより、大きな摩擦力が生じてがっちり固定され、振動や衝撃による緩みを防ぎます。
また、例えクリープで取付部材の座面が下がって軸力が失われても、くさび効果によって押し付けられたナットはボルト軸にしっかり固定されて外れません。

２つのナットを使用しますが作業手順は分かり易く、使用する道具も特殊なものは必要ありません。そして、ねじ込みの際の抵抗も一般品と変わらないため、とても扱いやすいのも特徴です。また、再利用も可能で経済的です。特に、高速鉄道や建築構造物などの耐振動性が求められる環境で使用されています。

ばね緊縮式

こちらのナットは、振動外力によりボルト・ナットが緩み回転する前に『ばねの緊縮』にて緩みを防ぐスプリングをナットの中に組み込んでいます。一般の六角ナットと同じ工具で締め付けられ、ナットだけでゆるみ止め性能を発揮します。

写真のスマートハイパーロードナットは取外しの際には一般治具でも容易に外せる機構を持っており、取り外し作業がスムーズで施工性に優れています。また、繰り返しの使用も可能で経済的です。ねじ込みの際はナットのねじ側から挿入します。

ロックナットは数あれど、メンテナンスは大事

今回はゆるみ止めの機能を持った「ナット」を中心に見てきましたが、様々なワッシャーやゆるみ止め剤も開発されしのぎを削っています。
このようにゆるみ止めナットについて見てみると、ねじ締結の安全性を高めてねじ締結の信頼性を高めるために、勝手に緩み回転をさせない、座面の陥没を防ぐ、失った軸力を補う等のため、たくさんの工夫が実装されてきており、今後もさらに発展していくものと思われます。使用状況にあったファスナーを使用することによって、ねじの緩みによるトラブルを一定程度防ぐことができます。

残念ながら、こうした工夫をしたねじ部品の締結でも、「分離可能」というねじ締結の特徴を残したまま「100％絶対に緩まない」を達成するのは、今もそして将来も理論的に不可能です。それで「緩みを最小限に抑える」という方向で技術的対策を取るのが現実的です。
そこで「ねじの緩み」によるねじ締結のトラブルを防ぐ最良の方法は、「ねじのゆるみを初期段階で発見し、ねじの増し締めを行う」という、正直ちょっと敗北感の漂う結論に至ってしまいます。そう、ねじ締結に「メンテナンス」は欠かせません。