「アンカー」 第二回 「埋込(先付)アンカーボルト その1」

「アンカー」の第二回は埋込型のアンカーボルトについて調べてゆきましょう。


「アンカー」 
第一回 「アンカー」と呼ばれるファスナー
第二回 「埋込(先付)アンカーボルト その1」(本稿)
第三回 「埋込(先付)アンカーボルト その2」(近日公開)
第四回 「あと施工アンカー その1」(近日公開)
第五回 「あと施工アンカー その2」(近日公開)


手始めに、締結資材を扱う商社らしく「JISの「B0101 ねじ用語」【一般に用いるねじの“ねじ基本”及び“締結用部品(ねじ部品,座金,ピン及びリベット)”に関する用語及び定義について規定している】を紐解くことにします。

基礎に埋め込んで構造物の固定用いられるいわゆるアンカーボルトに該当すると思われるボルトは「基礎ボルト」と「アンカーボルト」として次のように記載されています。


基礎ボルト


「JISの「B0101 ねじ用語」の「基礎ボルト」の項です。

『基礎ボルト(2525) 機械構造物を据え付けるときに構造物を土台に締め付けるボルト。形状は種々ある(JIS B 1178参照)。』

ここにある「JIS B 1178」規格は,一般に用いる鋼製の基礎ボルトの特性についてです。この規格によると基礎ボルトには4 種類 の形状(L形,J形,LA形及びJA形)があることがわかります。



これらはメートル並目ねじでL形はねじの呼びの範囲がM10-20, J形・JA形はM10-M48、LA形はM8-M48となっています。

M36以下のボルトは強度区分4.6でJIS B 1051の4.(材料)で規定する炭素鋼、またM42以上の大型の基礎ボルトの機械的性質は受渡当事者間の協定によるものとされています。材料は一般構造用圧延鋼材いわゆるSS材のSS400又は引張強さ392 N/mm²以上で,硬さ105〜229 HBと規定されています。


※SS材 (Steel Structure JISG3101)
鋼材に含まれる炭素の量が、0.15~0.2%の低炭素の軟鋼で、含有不純物は、リン(P)と硫黄(S)の含有量を0.05%以内と決めている他は、明確な基準はありません。


構造用両ねじアンカーボルト

次いで「JISの「B0101 ねじ用語」にある「アンカーボルト」についての記述です。

『アンカーボルト(2910) 構造部材や設備機器を固定するためにコンクリートに埋め込んで用いるボルト。構造用両ねじアンカーボルトと呼ばれている(JIS B 1220及びJIS B 1221参照)』
とあります。

そこで「JIS B 1220:2015 構造用両ねじアンカーボルトセット」を見てみます。実はこの規格が作られたきっかけは1995年1月の阪神大震災です。この大震災により構造物の倒壊や火災によりあまりに多くの人命が失われたことにより、改めて構造物と基礎コンクリートを接続する重要な部品としてアンカーボルトが見直されました。それを受けて日本鋼構造協会殿より「建築構造用アンカーボルトの製品規格」が2000年7月に制定されました。

従来のアンカーボルトがボルトねじ部分で破断し、建物が倒壊する事例が多く生じたため、地震時にボルトねじ部でアンカーボルトが破断することなく、アンカーボルト全体で地震等による引抜力を吸収できるよう設計がなされました。

その後、この新しい思想で設計されたアンカーボルトが、「JIS B 1220及びJIS B 1221」が2010年10月に構造用アンカーボルトとして規格制定されました。そして2015年12月の改正でねじ製造方法(転造と切削)による差異は構造設計上の観点から見れば必ずしも大きいものではないとのことから、一つの規格(JIS B 1220:2015)に集約されました。

地震時の大きな塑性歪を受け持つためには、アンカーボルト自体が破断するまでに十分な塑性変形能力を持つことが必要です。そのために降伏点や降伏比を規制した、SNR鋼(JIS G 3138 建築構造用圧延棒鋼)を用いたアンカーボルトが定められました。ステンレス製は建築構造用ステンレス鋼材のSUS304A(JIS G 4321)を用いて制作されます。

「JIS B 1220構造用両ねじアンカーボルトセット」は構造用両ねじアンカーボルト1本・構造用六角ナット4個・構造用平座金1枚がセットです。


このセットはコンクリート基礎中に定着板に固定されることで引抜き抵抗を保持します。尚、ボルト,ナット及び座金は,それぞれ附属書A,附属書B及び附属書Cに規格が載せられています。ここでは“ボルト”に注目します。

『附属書A (規定) 構造用両ねじアンカーボルト』ではボルトの製造方法によって2種類に分けられています。

転造ねじ加工による両ねじボルト(M16-M48メートル並目ねじ)が
・ABR400用ボルト(炭素鋼 ボルトの引張強さ 400 N/mm²以上)
・ABR490用ボルト(炭素鋼 引張強さ490 N/mm²以上)
・ABR520SUS用ボルト(ステンレス製引張強さ520 N/mm²以上)

切削ねじ加工の両ねじボルト(M24-M100 こちらはメートル細目ねじ)は
・ABM400用ボルト(炭素鋼 引張強さ400 N/mm²以上)
・ABM490用ボルト(炭素鋼 引張強さ490 N/mm²以上、
・ABM520SUS用ボルト(ステンレス製 引張強さ520 N/mm²以上)

と規定されています。

「転造」では、転造ダイスの間に丸棒を挟み込んで力を加えて永久変形させる塑性変形によってねじ山を成形します。一方、「切削」は丸棒または刃物を回転し、丸棒からねじの谷部を削り取ってねじ山を造ります。そのため転造ねじはファイバーフロー(金属組織の流れ)が切断されずかえって加工硬化により強度を増します。一方切削ねじはファイバーフローが切断され、割れやすく強度は弱くりやすくなります。そのため切削ねじのABMは細目ねじにすることで、削られて効断面積が小さくならないようにしています。

構造用両ねじアンカーボルトの材料は、建築用圧延鋼材のSNR鋼SNR400B、SNR490Bです。
従来から建築用鋼材として使用されているSS鋼は、成分規定不純物であるP(リン)とS(イオウ)の含有上限値のみが定められているだけでした。しかしSNR鋼は、鉄骨建築に求められている強度・伸びなどの特性が強化されています。化学成分のうち、溶接性の保証のためMn(マンガン)の含有量に上限値と下限値を設け、さらにSS鋼より不純物のPとSの上限値をきびしく抑えています。
SNR鋼の引張強度は400N/mm²と490N/mm²の2種類で従来のSS鋼とは同じですが、その他に伸びや降伏点の範囲、降伏比などが規定されています。


転造ねじ



切削ねじ


構造用アンカーボルトは地震時の大きな塑性歪を吸収し、ボルト降伏後の伸びや耐力を保証するために降伏比を低くしています。
「降伏比」とは鋼材の「降伏点」を「引張強さ」で割った値で、引張強さの何%の応力で降伏(永久変形して元の形状に戻らなくなる)するかを表しています。降伏比が低いほど鋼材の降伏後の伸び能力と耐力上昇が大きくなります。それで、例えばABM400ボルト及びABM490ボルトの降伏比は,75 %以下でなければならないと定められています。

このように見てくると「構造用両ねじアンカーボルト(JIS B 1220)」は地震に強い建造物を建築するために制定された製品であることが良くわかります。

この規格の構造用アンカーボルトは、建築用アンカーボルトメーカー協議会がABR/ABM規格アンカーボルトとして認定し耐力と性能を保証されたアンカーボルト一般普及製品として利用されています。

ABR/ABM規格アンカーボルトについてさらに詳しく知りたい方は建築用アンカーボルトメーカー協議会様のページをご覧ください。
ホームページ http://jfma.com/


次回予告

ここまで「埋込(先付)アンカーボルト」の「構造用両ねじアンカーボルト」と呼ばれる種類のアンカーボルトを見てきました。次回は「埋込(先付)アンカーボルト」の「木構造用金物のアンカーボルト」を見てみましょう。


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