「ねじの豆知識」 ナットの基礎知識4 「六角ナット」の作り方
『ねじの豆知識 「ナット」の基礎知識』の第四回は「六角ナット」の作り方です。材料は何? 成形はどうやる? ねじ立てはどうする?
ナットの基礎知識
Vol.1 ナットとは? 働き・使い方
Vol.2 「六角ナット」の規格
Vol.3 様々な機能を持つナット
Vol.4 「六角ナット」の作り方
Vol.5 「六角ナット」製造技術・機械の歴史
六角ナットの作り方 概要
六角ナットは大きく分けて
Ⅰ:成形
Ⅱ:ねじ立て
の2工程で製造します。
成形工程で、材料をねじ山のない六角ナット=ブランクにします。この六角ナット成形加工は、①冷間圧造 ②熱間圧造 ③打抜(プレス)④切削加工の4種類に分類でき、製品のサイズや必要な数量などの条件により選択されます。
参考:オーステナイト系ステンレス(例SUS304)は300℃から600℃で塑性成形する温間圧造となります。
次に、ブランクに別の機械でねじを立てるためにタップ(ねじ切り)を行います。その後、必要に応じて熱処理や、めっきなどの表面処理を行います。また、熱間圧造の場合、通常、ねじを切る前に熱処理とブラストを行います。
このコラムは現在ナットの主流の量産方法、冷間圧造を中心に話を進めます。
材料
ナット製造の方法により材料鋼材も異なります。
① 冷間圧造用材料
六角ナットの冷間圧造では、常温で丸断面や六角断面のコイル状になった材料を塑性加工します。線材はコイル状に巻かれた形で工場に供給されます。冷間圧造に適していると言われているサイズは、ねじの呼びでM16くらいまでです。冷間圧造ナットの材料の線材太さ(線径)は、φ3からφ32ぐらいまでです。
※「冷間圧造用炭素鋼線材」はJIS規格(JIS G 3507-1:2021)の中で、太さφ50まで定められています。
鋼材は冷間圧延され、つやのある滑らかな表面に仕上げられています。線材表面の傷は、圧造後の製品の表面欠陥(割れ)の要因となるからです。そして、潤滑処理により材料と工具の直接接触による焼付き防止し、滑りをよくして塑性変形を容易にします。
一般使用ナットの材質は、冷間圧造用炭素鋼線材(SWRCH8~12 数字は炭素の含有量の代表値を示しています。12であれば炭素の含有量は0.10~0.15%になります)が選ばれます。高い機械的性質の必要なナットには、機械構造用炭素鋼線材(S12C~S45C 数字は炭素含有量の代表値。45であれば炭素含有量は0.42~0.48%です)やクロムモリブテン鋼線材(SCM435 数字の1桁目は主要合金元素量を表すコード【2、4、6、8】、残りの2桁が炭素含有量の代表値です。35は炭素含有量が0.33~0.38%)が使用されます。特殊用途のナットにはステンレス鋼線材(SUS304 ~316 数字はステンレスの種類を示します。炭素含有量ではありません。300台はオーステナイト系です)や、黄銅(銅と亜鉛の合金)などの銅合金線が選択されます。
② 熱間圧造用材料
材料は黒皮材(熱間圧延され酸化皮膜の黒い膜に覆われている)です。約1250℃に加熱して圧造成形します。熱間圧造用の材料は、約5~7mの棒鋼やコイル状に巻かれた線材として工場に供給されます。
材質は機械構造用炭素鋼のS35C~S48Cが最もよく使われます。SCM材、高温用合金鋼ボルト材と呼ばれるSNB材、SUS材なども一部用いられます。線径はφ16~φ38くらいが一般的です。
③ 切削加工用材料
主に棒状の鋼材を型に通して引き抜くために「引抜磨棒鋼(ひきぬきみがきぼうこう)」を使用します。冷間引抜きにより、丸型・六角形状の棒鋼となります。棒材の材料となる鋼種はナットに求められる機械的性質により決定されます。
「引抜磨棒鋼」を材料とするため、切削ナットは「磨(みがき)ナット」とも呼ばれます。
成形
六角ナットの主な成形方法は、「ナットホーマ」と呼ばれる機械で圧力を加えて変形させる塑性加工と、「切削ナット自動盤」などによる材料から削り出す切削加工に大別できます。塑性加工はさらに、常温(再結晶温度以下)で行う冷間圧造と、材料を加熱して行う熱間圧造に大きく分けることができます。
圧造は、切削加工よりもはるかに短時間で加工できる上に、材料ロスが切削加工よりはるかに少なくなります。また、素材を常温(再結晶温度以下)で扱うことで温度変化による寸法変化がほぼなく、高い精度で加工できるのも冷間圧造の利点です。このような利点から、冷間圧造は現在の「ねじ」加工の主流となっています。
成形された六角ナットのブランクは、次のねじ立て工程でナット自動ねじ立て盤や竪型多軸ねじ立て盤などによってタップされます。
冷間圧造による成形
六角ナットの冷間圧造の工程を少し詳しく見てみましょう(写真ⅠからⅤ)。冷間圧造はナットの呼び径M6~M16ぐらいのサイズが適しているといわれます。ナットの大きさによって3~5段打ちの「コールドナットホーマ」が用いられます。
典型的な工程は次のようです。
切断(Ⅰ)
コイル状になった材料を矯正機に送り、シャーダイスを通して目的の径に調整し、必要な長さにナイフで切断します。
成形(Ⅱ~Ⅳ)
切断された材料を金型(パンチ【移動側】とダイス【固定側】)で挟み込み、圧力をかけ塑性変形させます。ステーション間は、トランスファー装置により並行送り、あるいは180°回転の回転送りでワークを移動させます。
圧造パンチ外形寸法はダイスの寸法より約0.05~0.15mmくらい小さくします。またダイスの寸法は、前工程より約0.1~0.15mmずつ大きくなるよう設定されています。
一般に六角ナットの冷間圧造成形では、2回の予備成形の後に仕上成形を行ないます。予備成形を行うことで、割れや傷を防ぐとともに加工精度も向上します。また、機械や工具への負担も軽減されます。
この時点で中央の穴はまだ貫通していません。
穴抜き(Ⅴ)
第5ステーションで最終の穴抜きを行い、ねじ山のない六角ナット(ブランク)となります。
参考:熱間圧造
六角ナットの熱間圧造に使用される機械は「熱間ナットホーマ」と呼ばれます。工程は基本的に冷間圧造と同様で、切断・予備成形・本成形・穴抜きを4~6工程で行います。
現在、熱間ホーマで製作される六角ナットの主要サイズはM12~M36です。ボリュームが小さくなるほど過熱から圧造完了までの熱エネルギーの損失が大きくなるため、M14(二面幅24mm)くらいが冷間圧造との境目といわれています。自動車部品等の圧造用に開発されたパーツホーマを使用すると、M72の六角ナットも製造可能です。
加工するには約1250℃までワークを加熱する必要があり、瞬間的にこの温度まで加熱するために、加熱炉(高周波誘導加熱を用いて金属を加熱・溶解させる装置。誘導炉とも呼ばれます)が用いられます。また、パンチやダイスなどの型工具を冷やすための大量の冷却液(水や油が用いられます)が必要です。冷却液の温度は通常28℃以下にコントロールします。
仕様や要求より、圧造後、ねじ立て前に、冷間圧造には無い「ショットブラスト処理(細かい砂や鋼製・鋳鉄製の小球を吹き付け表面の黒皮(酸化物)を取り除く)」工程が追加されます。
参考:切削加工
切削によるナット製造では、一般的に「自動ナット盤」と「ボール盤」と呼ばれる工作機械が使用されます。
「切削ナット自動盤」によって棒材は ①穴開け ②外面取り加工 ③切断 がなされます。この段階では外観はほぼ完成品と同じです。
その後、ボール盤を使用して ④ねじ穴の面取り が行われ、ナットブランクが完成します。
ねじ加工(ねじ立て)
冷間圧造や熱間圧造で作られたブランクの穴にタップでめねじを切ることで、ナットのねじ立てを行います(写真Ⅵ)。一般的には「自動ねじ立て盤」や「竪型ねじ立て盤」が用いられます。
大型のナットや特殊形状のナットに対しては、「ねじ切り旋盤」や「多軸ねじ立て盤」、「ボール盤」などを使用します。
それでは、ベンドタップを用いる「自動ねじ立て盤」によるねじ立てのプロセスを見てみましょう。
①ホッパーに蓄えられたナットブランクが、シュートからガイド部に落下します。
②落下したナットブランクがガイドによって固定され、押し棒によって回転するベンドタップの先端(食いつき)に押し込まれます。ベンドタップはハウジングの回転力が伝わることで回転しています。ただし、ハウジング内で固定されてはいません。シャンクのストレート部に蓄えられたナットによって支えられています。
③ブランクがベンドタップに食いついた後は、ブランクへのねじ立てが、押し棒の力と回転するタップ自身の生み出す推力によって行われます。ベントタップは先端から先タップ、中タップ、仕上げタップと3段階で、ナットへのねじ切りを一方通行で行います。
④ねじ立てが完了すると、元の場所に戻った押し棒が、シュートから落下してきた次のナットブランクをガイド部へと押し込みます。
⑤ベンドタップのシャンクのストレート部分には、ねじ立てが完了した六角ナットが次々に押し出され、最終的にベント部(湾曲部)から遠心力でハウジング外へ排出されます。
①-⑤が連続して繰り返されて、自動でねじ立てが行われます。
六角ナットの形成は、このねじ立てで完了します。この後、求められる機械的性質によっては、表面処理・熱処理が行われます。
「六角ナットの作り方」はイメージいただけたでしょうか? 次は最終回「六角ナットの歴史」です。最後までお付き合いいただければ幸いです。